中原ぬこさん

言葉で遊びましょう

忘却を抱きしめる

 

 

わたしの世界の主人公はどうしてわたしなのだろう、倒錯が生じるくだらないことを考えるだけ無駄で考えが及ぶだけ無意味で
事故に遭う寸前の猫の顔みたいに
あの子の正しさに憧れた
正しいかどうかを考えることができるのならば、ここには正しくない事柄が存在する


大切な人や愛しい人や憎らしい人をわたしの人生のエンドロールに流すから
きっとわたしのことも覚えていて、忘れないで、醒めないでいて


指をパチンと鳴らした瞬間、刹那に消え去ることができたらその寸前の一切が浮き彫りになる


川いっぱいに流れる血液
積み重ねられた屍が山
あの山脈の向こう側に見える嘘みたいな、まるでおとぎ話のわたし以外


テープを回して食い入るようにじっと見つめていたら、画面の向こうで音を立てて目の前で倒れた人のことを知らない内にわたしたちは忘れてゆく、そういうのを抱きしめる


埋もれていたから全てをかき分けて抜け出した先で、これでもかと息を吸ったら吐いたその時見えた視界の端から端まで真っ暗で真っ白ななんにも無い嘘だった

わたしは目を閉じて真実を裏返してよくよく集中して物語を一から作り直そうとした
それが例えば自分自身を殺すことになったとしても、出演者という名のオーナメントを飾り付けた日々に、わたしは木の幹でも枝でもなくてっぺんに輝く星になる
降り注ぐ光のせいで見えてしまう手触りの悪いカサカサしたものを気にもとめないで解らせる


わたしの世界の主人公がわたしであることにとてつもない嫌悪感を抱きながら、情けないけどわたしだけの理を創れるのならば良しとしようにも、神は世界を創造するのに費やした7日間を一体全体どう過ごしたんだろう
無限に思える空と広大な大地と数え切れない生き物と恐いくらいの大海とを休みながら生み出したその間にきっとネズミの1匹でも話し相手に選んだはずだ


日々を意味付けて価値付けてなんの意味がある
眼鏡をかけたところではっきりとした周りの物事から目をそらすならばそもそも眼鏡なんてかけなくていいのに、見えないのが怖くていつもわざわざ手に取って


嘘をつくことに慣れたから

 

ねぇ、知っている?わたしたちの心臓は青色じゃなくて、宝石に押し付けた価値は有限な尺度で、陽は沈むからまた昇って、実はわたしたちの可能性は有限な中で納得のいかないくらい無限だ


初めから定められたことを運命と呼べるだろうか
例えば後悔や反省をして赦されるならば暗くてどろどろしたぐちゃぐちゃなもので病む人間などいないし神はそう世界を創造しなかった
そうだからといって、誰も隅っこで泣かずに済むようにと円くしたなんてずるいし卑怯な話だと思った
終わってしまう前に、もったいぶった方がいい
だからわたしは考えることをやめないでいられている