中原ぬこさん

言葉で遊びましょう

an unidentified girl B

 

少女BからLINEが来た、3回だけ送信取り消しされている、夜ももう更けている
2駅離れた彼女の家に駆けつける
手首を切って死んでやると連絡が来たから
扉が開いている、まるで彼女が誰をも受け入れると言っているように、あるいは誰でもいいから助けて欲しいと叫んでいるかのように
扉を引いて玄関に入る
靴が散乱している、彼女の生活は荒れている
すぐ近くのコンビニにしか行かないような穴ポコの空いたサンダルはかなり汚れている、彼女の食生活が伺えるようだ
1ルームの部屋に入ると彼女が低い机とベッドの間で横になっていた
敷いてあるピンクのふわふわしたカーペットが血で汚れている、あぁやっぱりまた手首を切ったんだと思った
机には睡眠薬やらの空のシートとストロング系のお酒が数本あった、コンビニ弁当らしきゴミもある
少女B、来たよ、起きて、寝てる?」
机の上に、何か書いたあとに黒く塗りつぶしたメモがある
切羽詰まっていたんだろう、彼女の周りには彼女を助けてくれる人がいない
ぼくが急いで駆けつけたって手首を切ったあとだった


彼女はぼくにどうして欲しいのだろう、いつも考える、そばに居てほしいのだろうか、でもそばにいようとすると「どうせ裏切って離れていくくせに、近づかないでよ!」などと言われる、その度にぼくはどうしていいかわからなくなって結局距離を置く、そして彼女の助けてほしいという悲痛な叫びを聞くと駆けつける、そんな関係でいいのだろうか、もっとぼくにしてあげられることはないのだろうか
きっとないのだろう、彼女がぼくに見せる姿はいつも薬でラリっているか酒で酔っているか、こうして自分を刃物で傷つけ終わった後なのだ
「助けて、死にたい」
「いまから手首切る」
「ごめんね」
取り消される前に見た3件のLINEに感情が左右される
彼女の叫びは幾度となく聞いてきたが、心の底から出る助けて欲しいというなまの声はまだ聞いてあげられていない、ぼくは頼りないだろうか、彼女はそんなにも弱いのだろうか


自分を刃物で傷つける度に彼女自身の心をえぐっている自分に彼女は気づいているだろうか
気づきたくなくて、そのメモは黒く塗りつぶされているのだと思う、まるでなかったことにしたかったみたいに
ぼくはそれに気付かないふりをしてあげることしか出来ない
傷ついた彼女の心から溢れた血液を綺麗に拭ってあげて、ガーゼと包帯を巻き軽い処置をしたあと、ぼくは彼女のそばに横になって頭を撫でてあげる
子どもみたいな寝顔を向けている彼女を少し愛しく思い、自分が苦しんでいることを自傷行為でしか示すことができない彼女に少し同情して、一緒に眠ってあげるのがいまのぼくにできることだった

彼女は自分をまだ理解していない、彼女の中にいる感情の化け物に振り回されている、名前も知らぬ少女B